ゆゆ式という作品がある。
私はこのゆゆ式という作品が好きだ。おそらくこれを読んでる人が想像するよりもずっと(あるいは想像通り?)大好きだ。そして、みんなにもこの私の好きな作品を同様に好きになってもらいたい。割と自然な感情だろう。
ところが、この作品を勧めるのは本当に難しい。
私らなにも無くない?
ゆとりバンザイ。ゆずこ、縁(ゆかり)、唯の三人娘がゆるゆるまったり繰り広げるスクールライフは、笑い・ときどきいいカンジ。ところにより百合要素。特に何も起こらないけどなぜか毎日心地良い。そんなgdgd気分にちょっと身をまかせちゃったりしてみます?
芳文社の公式サイトのゆゆ式紹介ページを見てみる。そこには、「特に何も起こらない」という驚愕の文節が存在する。
ゆゆ式を読んでいると忘れがちになるが、この「特に何も起こらない」というのは、作品にとってはかなり異端である。ゆゆ式以外の作品では、大なり小なり何かしらが起こる。そしてその起こったことに対して登場人物がどうにか解決しようと動く。それを作品として描き、読者(に限らず視聴者やプレイヤーと置き換えてもいい)を楽しませる。メタ的なことを言うと、すべての作品は「読者を楽しませる」ことを目的に作られている。
ところが、ゆゆ式は特に何も起こらない。電撃を放つ宇宙人は追って来ないし、水をかぶったらパンダになるわけでもなく*1、井戸に落ちても戦国時代にタイムスリップしたりはしない。ゆずこ、唯、縁の3人がいつも通り喋りあって触りあって楽しみあう。そこにヤマもオチもイミもない。本来の意味でのやおい作品である*2。
これでいて商業誌として大成しているのだから驚きである。読者はこの「読者を楽しませる気がない作品」を読んで楽しんでいるということの証左に他ならないからである。
アナタ達はイケナイ事はしないもの
読者を楽しませる気がない作品と書いたが、実は作品序盤で作者は作品に起伏を持たせようと努力していた跡が随所に見受けられる。おかーさん先生こと松本頼子の描写が顕著である。
おかーさんは作品序盤では明らかに「少し変な先生」として描写されている。手を叩きながら教室に入って、音がキレーに出たと発言し、その音を再現しようとしたこと。学校にもともとあったパソコンを自宅に持ち帰る*3。そもそも「おかーさん」というあだ名の先生という属性自体がユニークである。
やろうと思えばおかーさんの過去編などできたはずである。それを面白く描くことも作者には可能だっただろう。しかしゆゆ式はそれをしなかった。ゆゆ式の主役はあくまでゆずこ、唯、縁の3人であり、おかーさんの過去についてはたまに匂わせる程度の描写しかない。
今日からココを天国と呼ぼう
ゆゆ式の異端性としてもう一つ特筆したいのは、登場人物の関係性が物語開始時点ですでに成立しているということである。これは、作中で登場人物が仲良くなる過程を描写できないということに他ならない。
例えば、きんいろモザイクなら忍とアリス、ご注文はうさぎですか? ならココアとチノ、ゆるキャン△ならリンとなでしこが初対面から紆余曲折を経て仲良くなっており、作品もそれをコンテンツとして描写している。こういった「仲良くなる過程」を楽しむというのはいわゆる日常系はもちろん、ほとんどすべての作品における王道パターンとなっている。しかし、ゆずこ、唯、縁の3人組は物語開始時点ですでに親友であり、作中でその描写をすることはほとんどない*4。いわばゆゆ式はクリア後の世界でおまけ要素を楽しんでいるのだ。
いつのまにかほしい本が7冊も出てる
今まで書いてきた、「特に何も起こらない」「登場人物が仲良くなる過程が描写されない」という部分は、ゆゆ式を読まない理由としては正当なものであり、ゆゆ式のファンでもそれを言われたらあきらめるしかないのである。しかし、ゆゆ式を楽しんでいる人にとってはそれがいいのだ。「特に何も起こらない」というのは、作中の登場人物が話を面白くするための不自然な行動をしないということであり、「登場人物が仲良くなる過程が描写されない」というのも、紆余曲折の中で生じるあつれきが生じないということだからである。ゆゆ式のファンがゆゆ式を見る理由と、ゆゆ式のファンじゃない人がゆゆ式を見ない理由は同じなのだ。
ゆゆ式を勧めるのは本当に難しい。個人的には「ゆゆ式は人を選ぶ」と思っているが、まさにその通りだ。
なので読まなくていいので買ってほしい。そっちは作品を無理に読む必要はなく、ゆゆ式というコンテンツにお金が入る。win-winとはこのことだ。
今*5なら芳文社70周年セールと銘打ってゆゆ式電子書籍1巻~7巻が77円*6である。
7巻まで買っても539円。10巻すべてを買っても2,915円で済んでしまう。おまけに電子書籍なので場所を取らない。ゆゆ式が自分を選んでくれるのか試してみるいい機会だろう。
願わくば全人類がゆゆ式に選ばれんことを。